「保険証がない患者さんの分、レセプトはどう出せばいいですか」
災害のあと、月末が近づくと出てくる質問です。

災害のあとの受付は、聞ける範囲を聞いて通すだけで精一杯になります。困るのは、そのあと。氏名と生年月日しか書いていない受付票を前に、保険者番号の欄で手が止まります。

この手止まりに、総合病院で医療事務10年以上、いまはフルリモートで算定業務を担当している私がお答えしますね。

✅ この記事でわかること
- 1件のレセプトを、上から順に処理していく手順(0から6まで)
- 不詳請求の前に試す資格照会(緊急時医療情報・資格確認機能)
- 紙レセプト・電子レセプトそれぞれの書き方と、記入する場所
- 国保連と支払基金、どちらに出すかの決め方と束ね方
- 提出期限は延びるのか、不詳で出したあと何が起きるのか
- 減免の通知が届く前に、窓口でいくら受け取るか
- 一部負担金の減免(災1・災2)が、請求とは別の判断になる理由
- 避難してきた患者さんを受け入れた側の病院に出る特例
- 災害のたびに、通知をどこから探せば早いか

先に答えをお伝えすると、災害時の請求は「受付で残す → 資格を照会する → それでも分からない分だけ不詳で出す」の順番です

書き方を覚えるより、順番を知るほうが先。調べれば分かる資格を不詳で出してしまうのが、いちばんもったいない失敗です。

この記事が扱うのは、災害で資格情報を確認できない患者さんの医科の医療保険レセプトです。

医療機関自体が被災した場合の概算請求、公費負担医療、労災、自賠責は別の取り扱いになります。

マイナ保険証が読み取れないなど平時の場面は、マイナ保険証が読み取れない時の対応へ。

⏱ かかる時間:通常の請求に、資格照会と欄外・摘要欄の記載を足す分だけ/💰 かかるお金:この取り扱い自体に費用はかかりません

▼ 今すぐ書き方の一覧を見る

🔴 令和8年熊本地震で、いま動いていること(2026年7月29日時点)
- 請求方法は、7月28日の事務連絡が平成25年1月24日付け事務連絡に準じて取り扱うとしています
- 緊急時医療情報・資格確認機能は、熊本県内21市町村で令和8年8月3日までアクティブ化
- 保険診療関係等の取り扱いは、令和8年8月31日までの間が対象
- 一部負担金の徴収猶予・減免は、7月28日付けで保険者へ改めて周知(一律免除ではありません)
詳しくはこの記事の後半にまとめました。

✅ この記事を書いた人
ゆう|3つの総合病院で医療事務10年以上|元採用担当3年|現フルリモート医療事務|3児パパ

全体の流れ|1件を処理する順番

まず地図から。この記事は、上から読めばそのまま1件が処理できる順に並べています。

災害時のレセプト請求の順番。保険請求の可否、受付情報、資格照会、仕分け、紙か電子か、書く、提出先、請求書

順番 やること 迷ったら
0 その診療、保険請求にできるか 避難所が絡んだら院内責任者へ
1 受付で残した情報を確認する 空欄があれば受付へ確認
2 資格を照会する 対象地域・期間かをポータルで確認
3 判明状況でA・B・Cに分ける 紙か電子か、今月出すか月遅れかもここで
4 Bの書き方/Cの書き方で記入する 減免の対象なら災1・災2も同時に
5 提出先を決めて、束を分ける 決まらない時は確認を尽くして判断
6 診療報酬請求書を作る 「未確定分」は請求書の備考欄

順番に見ていきますね。

ステップ0|その診療、保険請求にできますか

請求の前に、そもそも保険診療かどうかを分ける場面があります。避難所での診療が絡む時は、ここを先に確認してください。

保険請求の可否3分岐。院内の通常診療は保険診療、知事要請の救護班は災害救助法、自発的な巡回は対象外

診療の形 扱い
保険医療機関内での通常の診療 通常の要件を満たせば保険診療
都道府県知事の要請に基づく救護班・DMAT・JMAT等が避難所等で行った応急的な医療 災害救助法の補助対象。保険診療として扱えず、一部負担金も求められません
被災地の医療機関の医師等が、自発的に避難所を巡回して行った診療 保険診療として扱えず、災害救助法の対象にもなりません

3つ目に注意。自発的な巡回の途中で、普段外来で診ている患者さんを診察・処方した場合も、保険診療にはできないと通知に明記されています。

判断の分かれ目は場所ではなく、誰の要請で、どの立場で診療したか。ここは受付や請求担当だけでは決められないので、院内の責任者へ確認を。

なお、避難所に継続して住んでいる患者さんへの訪問診療など、条件を満たせば算定できるものもあります。この記事の範囲を超えるところなので、該当しそうな時は通知の原文にあたってください。

ステップ1|受付で残す情報

マイナ保険証や資格確認書を提示できなくても、必要な事項を申し立ててもらえば保険診療として受診できます。7月28日の事務連絡が挙げているのは、次の内容です。

受付で残す情報。氏名、生年月日、性別、住所または保険者名、連絡先。保険の種類に応じて事業所名や組合名も

確認する内容 補足
氏名 フルネーム
生年月日 西暦・和暦どちらでも
連絡先 避難先で使える電話番号
事業所名 被用者保険の場合
住所 市町村国保・後期高齢者医療の場合
住所+組合名 国保組合の場合

後半の3つが、あとで提出先を決める手がかり。

ここに1つ足しておくと、次のステップが楽になります。性別です。

通知が挙げる確認事項には入っていませんが、このあとの資格照会で検索キーになるところ。受付票の様式に入っていることが多いので、空欄のままにしないでおけば十分ですね。

💬 「保険証がなくても受診いただけます。お名前と生年月日、お勤め先かご住所を教えていただけますか」

確認した内容は、そのまま診療録等へ。ここを飛ばすと、あとで請求担当が何も書けません。

ステップ2|不詳で出す前に、資格を照会する

ここを飛ばして不詳で出してしまう人が、いちばん多いところ。

大きな災害が起きると、厚生労働省が対象の地域と期間を指定して、オンライン資格確認等システムの緊急時医療情報・資格確認機能をアクティブ化します。

災害時モードと呼ばれる仕組み。

全国で自動的に使えるようになるわけではありません。自分の病院が対象かどうかは、医療機関等ポータルのお知らせやメールで届く利用開始の連絡で分かります。

対象になっていれば、患者さんがマイナンバーカードを持っていなくても、受付で聞いた情報から資格をたどれます。

緊急時医療情報・資格確認機能の流れ。氏名、生年月日、性別、保険者名または住所の一部を資格確認端末へ入力し、被保険者番号を特定して照会する

照会の手順

  1. 患者さんから、医療情報を閲覧することについて口頭等で同意をもらう
  2. 氏名・生年月日・性別・保険者名称または住所の一部を、資格確認端末に入力する
  3. 表示された被保険者番号をキーに、緊急時医療情報・資格確認機能へ照会する

被保険者番号がすでに分かっている場合は、2を飛ばして番号から直接照会できます。

生命や身体の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合は、個人情報保護法の規定により同意なしで照会できます。意識のない患者さんが運ばれてきた場面ですね。

確認できる内容

  • 保険者番号
  • 記号・番号
  • 枝番
  • 薬剤情報・診療情報・特定健診情報

つまり、請求に必要な資格情報の一部がここで埋まります。

使う時の注意

  • 操作するのは資格確認端末:レセコンからではありません
  • 使えるのは対象地域・対象期間だけ:厚生労働省が指定した地域の医療機関に、医療機関等ポータルのお知らせやメールで利用開始が通知されます
  • 閲覧は患者さんへの医療の提供目的に限られます:利用目的外の閲覧は認められず、システムに閲覧ログが残ります

停電や通信断でシステムそのものが動かない場面もあります。

その時に、もう1つ道があります。患者さんがマイナンバーカードを持っていてスマートフォンが使えるなら、マイナポータルにログインしてもらう方法です。

「わたしの情報」から「健康・医療」へ進むと、被保険者番号などの資格情報や薬剤情報を本人が確認できます。画面を見せてもらえれば、そこから記号・番号を控えられます。

💬 「マイナポータルにログインしていただくと、ご自身の保険の番号が出てきます。画面を見せていただけますか」

それでも分からない時が、ステップ3です。

ステップ3|判明状況で3つに分ける

照会まで済ませたら、レセプトを3つに仕分けます。

照会後の3分岐。資格情報を確認できた、保険者は分かるが記号番号が不明、保険者も分からない

分類 状態 請求のしかた
A 保険者番号・記号・番号が確認できた 通常どおり
B 保険者は分かる。記号・番号が分からない 「不詳」で請求
C 保険者も分からない 住所や事業所名を残して請求

Aは、いつもの請求です。特別な記載は要りません。

BとCは、レセプトに残す内容が違います。ここを混ぜると返戻の原因になるので、分けて見ていきますね。

紙と電子、どちらで出すのか

書き方の前に、媒体の話を。

7月28日の事務連絡は、今回の請求について「平成25年1月24日付け事務連絡(暴風雪被害に係る診療報酬等の請求の取扱いについて)に準じて取り扱われたい」としています。

つまり、書き方の中身は平成25年の通知の側。

そこに、保険者が特定できない者等に係る明細書は、電子ではなく紙レセプトで請求することと書かれています。

紙の出力が困難な場合に限り、電子でも差し支えない、という順番。

普段オンライン請求をしている病院でも、この分だけは紙に切り替える判断が入ります。まず自分の病院がどちらで出すのかを、請求担当者と決めてから書き始めてください。

ステップ3の続き|今月出すか、月遅れにするか

先に答えると、今日時点で、レセプトの提出期限を延長する通知は確認できていません

厚生労働省の第14報の医療保険関係、支払基金の災害関連情報、九州厚生局、熊本県国保連。今日この4つを見た範囲では、期限の特例は出ていません。

DPCのデータ提出加算などについては「都度事務連絡を行う」とされていますが、レセプトそのものの期限は通常どおりと考えて動くところ。

そうなると、月末に判断が1つ。

  • 不詳のまま期限内に出す
  • 資格が判明するのを待って、翌月以降に回す(月遅れ請求)

どちらも実務ではあることです。不詳で出しても、次に書くとおり審査支払機関側で特定の作業が動くので、出したら終わりではありません。

院内でどちらにするかを先に決めておくと、月末に迷わずに済みますよ。

ステップ4-B|保険者は分かる。記号・番号が分からない時

いちばん多いパターンです。

なお、一部負担金の減免が決まっている患者さんなら、ここで書く内容に加えて災1・災2の記載も必要になります。判断のしかたはこの記事の後半にまとめました。

Bの書き方。紙は保険者番号を所定欄に書き欄外上部へ赤字で不詳。電子は番号999999999と摘要欄先頭に不詳

紙レセプトの場合

記入する場所 書く内容
保険者番号欄 確認できた保険者番号
明細書の欄外上部 赤色で「不詳」

記号・番号の欄は空欄のまま。欄外上部の赤字が、審査支払機関への合図になります。

欄外上部とは、レセプト用紙のいちばん上、印字された枠の外にある余白のこと。手書きで書き込む場所です。

電子レセプトの場合

項目 記録する内容
保険者番号 確認できた保険者番号
記号 記録しない
番号 999999999(9桁)
摘要欄の先頭 「不詳」

9が9つ。桁数を間違えやすいところなので、入力したあとに一度数えてみてくださいね。

「摘要欄の先頭」は、レセ電ではコメントレコードとして記録する部分です。入力画面での呼び方はレセコンによって違うので、迷ったらベンダーの手順書で「摘要」を引いてみてください。

なお、保険の種類は分かるのに保険者番号そのものが分からない場合は、保険者番号を99999999(8桁)で記録し、摘要欄に住所または事業所名、確認できていれば連絡先を記録します。

9が8つ。番号欄の9桁とは別物です。

ステップ4-C|保険者も分からない時

確認できた手がかりを、そのまま残す形になります。

Cの書き方。紙は欄外上部へ住所または事業所名と連絡先。電子は保険者番号99999999と摘要欄先頭へ住所または事業所名

紙レセプトの場合

明細書の欄外上部に、次を記載します。

  • 被用者保険と思われる場合は事業所名
  • 国保・後期高齢者医療と思われる場合は住所
  • 患者さんに確認できていれば連絡先
  • 記号・番号だけ確認できた時は、その記号・番号

電子レセプトの場合

項目 記録する内容
保険者番号 99999999(8桁)
記号 確認できた場合は記録/不明なら記録しない
番号 確認できた場合は記録/不明なら999999999(9桁)
摘要欄の先頭 住所または事業所名、確認済みの連絡先

記号・番号が確認できているなら、保険者が分からなくても記録します。手がかりは多いほど、審査支払機関側でたどれる可能性が上がります。

ステップ5|提出先の決め方と、束ね方

書き終えたら、出す先を決めます。

提出先の分け方。国保連は市町村国保、国保組合、後期高齢者医療。支払基金は協会けんぽ、健康保険組合、共済組合

提出先 対象
国保連(国民健康保険団体連合会) 市町村国保・国民健康保険組合・後期高齢者医療制度
支払基金(社会保険診療報酬支払基金) 協会けんぽ・健康保険組合・共済組合等の被用者保険

どちらか分からない時は、判断して出します

ここは誤解されやすいところ。

事務連絡では、どちらに提出すべきか不明なレセプトは、医療機関において可能な限り確認したうえで、個別に判断し、いずれかに提出するとされています。

止めるのではなく、確認を尽くして出す。これが通知の答えです。

確認の手がかりは、過去の受診歴、患者さんへの聞き取り、勤務先への問い合わせ。それでも決まらない時は、自分ひとりで決めず院内の請求責任者へ。

💬 「この方の提出先が決められません。受診歴と聞き取りで分かったのはここまでです。判断をお願いできますか」

聞き方をこの形にしておくと、確認した内容がそのまま引き継げます。

束ね方

保険者が特定できない分は、国保連へ提出する分と支払基金へ提出する分を、それぞれ別に束ねて請求します。ここは通知に明記されています。

通常のレセプトの束に混ぜるかどうかは書かれていませんが、分けておくほうが確実です。あとで問い合わせが来た時に、どれが不明分だったか自分でも追えますよ。

診療報酬請求書の書き方

明細書とは別に、請求書の作り方も分かれます。

診療報酬請求書の書き方。国保連は不明分の請求書を作成し国保分と後期分を区分。支払基金は備考欄に未確定分と件数などを一括記載

提出先 請求書の作り方
国保連 不明分について診療報酬請求書を作成する(通常どおり国保分と後期高齢者分を区分して、それぞれ作成)
支払基金 診療報酬請求書の備考欄に「未確定分」である旨を明示し、その横に件数・診療実日数・点数等を一括して記載する

「未確定分」を書くのは請求書の備考欄です。個々のレセプトの摘要欄ではありません。ここは間違えやすいので、書く前にもう一度確認を。

書く場所が3つ出てきたので、1枚にまとめておきますね。

どこに何を書くか。紙の欄外上部、電子の摘要欄の先頭、請求書の備考欄の3つ

不詳で出したあと、どうなるか

出しっぱなしになるわけではありません。

支払基金は、保険者等番号や被保険者等記号・番号が「不詳」のまま請求されたレセプトについて、患者さんが受診した当時の加入保険者を特定する作業を行っています。

コールセンターから保険者や患者さんへ電話で照会することもあり、保険者向けの専用フリーダイヤルも用意されています。

出典は支払基金|不詳レセプトに係る資格情報の確認について

つまり、確認を尽くしたうえで不詳として出すのは、投げ出しではありません。次にたどる人へ手がかりを渡す作業です。

欄外や摘要欄の記載を丁寧にしておくほど、特定は早くなりますよ。住所も事業所名も空欄のレセプトは、誰にもたどれません。

一部負担金の減免(災1・災2)は、別の判断です

ここまでが請求の話。窓口負担の話は、別の入口から始まります。

資格情報を提示できないことと、一部負担金が免除されることは、別の取り扱いです。被災者全員が自動で窓口負担ゼロになるわけではありません。

災1と災2の使い分け。対象と対象外を別の明細書にできる時は災1、区別が困難な時は災2

先に確認すること

減免の対象者・対象期間・確認方法を決めるのは、加入している保険者と自治体です。次の5点が分かるまで、災1・災2の入力はできません。

  1. 対象になる保険者
  2. 対象になる地域・対象者
  3. 対象になる期間
  4. 必要な書類・申し出の方法
  5. 免除・減額・徴収猶予のどれか

徴収猶予と免除は、別のもの。猶予はあとで払う、免除は払わなくてよい、という違いです。ここを取り違えると、患者さんへの説明が食い違ってしまいます。

保険者の通知が届く前の会計は

減免を決めるのは保険者。裏を返すと、通知が届いていない時点で、医療機関が独自に「この人は免除」と判断することはできません。

つまり通知が届くまでは、通常どおりの負担割合で会計します。

対象と決まった分をどう戻すかは保険者ごとに違うので、還付の手続きになることもあれば、医療機関側で調整する扱いになることもあります。

減免が決まる前と後の会計。通知が届く前は通常の負担割合、届いたあとは免除や還付へ

患者さんから「免除になると聞きました」と言われた時は、こう伝えられます。

💬 「免除の範囲は加入先の保険者が決めるところなので、今日は通常のご負担でお願いしています。対象と決まれば、あとから戻る手続きがあります」

断ったわけではない、と伝わる言い方にしておくのが大事なところ。

患者さん側の手続きは災害時は保険証がなくても受診できますにまとめました。

災1と災2の使い分け

区分 使う場面
災1 減免の対象となる診療と、対象外の診療を、別の明細書にできる時
災2 同一患者で、対象と対象外を区別することが困難な時

記録する場所

媒体 災1 災2
欄外上部に赤色で「災1」/対象と対象外の明細書を2枚1組にし、通常の明細書とは別に束ねる 欄外上部に赤色で「災2」/被災以前の診療に関する一部負担金等の額を摘要欄に記載
電子 レセプト特記事項に「96」、減免区分に該当するコード、摘要欄の先頭に「災1」 レセプト特記事項に「97」、減免区分に該当するコード、摘要欄の先頭に「災2」/被災以前の診療に関する一部負担金等の額も摘要欄へ

減免の割合などの記載方法は、診療報酬請求書等の記載要領のとおりに書きます。

減免区分のコードは、レセプトの記録条件仕様で共通に決まっています。

コード 内容
1 減額
2 免除
3 支払猶予

出典は厚生労働省のオンライン又は光ディスク等による請求に係る記録条件仕様(別表9)

どれを選ぶかは、保険者の通知で決まった扱いに合わせます。

避難してきた患者さんを受け入れた病院にも、特例があります

ここまでは被災地の病院の話。ただ、避難した患者さんは被災地の外の病院にも来ます。

令和8年3月31日の通知には、被災者を受け入れた側被災地へ職員を派遣した側の医療機関に向けた取り扱いも入っています。

受け入れ側の特例。超過入院の減額なし、夜勤時間や看護配置の変更届は不要、専従要件も外れない

主なものを挙げます。

場面 取り扱い
被災者を超過入院させた 入院基本料の減額措置は適用しない(入院した月に限る)
入院患者が急増した/職員を派遣して不足した 月平均夜勤時間数が1割以上変動しても、変更の届出は不要
同上 看護要員の数や看護配置の比率が1割以上変動しても、変更の届出は不要
専従の職員を被災地へ派遣した それだけで専従の要件を満たさなくなるわけではない
被災地の病院から転院を受け入れた 平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算出から、その患者さんを除いて計算できる

対象は、DMAT自動待機基準でDMAT指定医療機関が待機を行う地域に所在する医療機関です。全国どこでも、ではありません

届出をしなくてよいとされた場合も、受け入れや派遣があったことは記録して保管します。あとで説明を求められた時に必要になるところ。

施設基準を満たせなくなる不安は、請求担当に直撃します。該当しそうな時は、自分の病院が対象地域かどうかを通知で確かめてください。

令和8年熊本地震の現在地(2026年7月29日時点)

いま動いている取り扱いを、日付つきで整理します。

🔴 令和8年熊本地震について
- 7月28日 マイナ保険証や資格確認書を提示できなくても医療保険で受診できることを、関係団体・都道府県・地方厚生局へ周知
- 7月28日 緊急時医療情報・資格確認機能をアクティブ化(熊本県内21市町村・令和8年8月3日まで)
- 7月28日 一部負担金等の徴収猶予・減免ができることを、協会けんぽ・健康保険組合・支払基金等へ周知。国民健康保険と後期高齢者医療についても各都道府県へ周知
- 7月28日 公費負担医療について、受給者証等がなくても受診できる取り扱いを周知
- 7月29日 今回の地震が「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」の対象となる災害に該当することを周知(令和8年8月31日までの間)

令和8年熊本地震で動いていること。7月28日の3本と7月29日の1本、それぞれの対象と期間

緊急時機能のアクティブ化対象は、熊本市・八代市・水俣市・山鹿市・菊池市・宇土市・上天草市・宇城市・天草市・合志市・美里町・大津町・菊陽町・西原村・御船町・嘉島町・益城町・甲佐町・氷川町・芦北町・津奈木町。

期間や対象地域は変わることがあります。使う時点の通知を確認してください。

2026年3月に、枠組みが変わりました

もうひとつ知っておきたい変化。

令和8年3月31日付で「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」という通知が出ました。

従来は災害ごとに個別の通知を待っていたところ、一定の基準を満たす災害では個別通知の発出を待たずに、あらかじめ定めた取り扱いが適用される形になっています。

対象期間は、災害が発生した月とその翌月。今回の熊本地震なら、令和8年8月31日までです。

ただし、保険者が特定できない場合の請求書の記載方法については、この通知でも「別途連絡があった場合は、これに従うこと」とされています。

請求のしかたは、引き続き災害ごとの連絡を確認する必要があります。

通知は、どこを見れば早いか

災害のたびに探し回ることになるので、見る順番をまとめました。今回この記事を書くにあたって、実際にたどった経路です。

通知を探す順番。支払基金の災害関連情報、厚労省の第◯報の医療保険関係の章、地方厚生局、医療機関等ポータル

1. 請求の取扱いは、支払基金の災害関連情報から

支払基金の災害関連情報には、災害ごとのフォルダが作られ、通知のPDFが直接置かれます。

目的の通知にいちばん早く着くのがここ。

今回の熊本地震も、7月28日と29日の事務連絡4本がまとまって置かれていました。

2. その時点で何が出ているかは、厚労省の「第◯報」の中

厚生労働省の災害ページは、第1報・第2報とPDFが並ぶだけで、見出しからは中身が分かりません。

各報のPDFを開いて「医療保険関係」の章を見ると、その時点で出た通知が発出日つきで全部並んでいる形

一部負担金の3本も、公費の1本も、ここで確認できました。

ページに載っていない、は通知が出ていない、ではないところ。ここを知っておくと探す時間が減りますよ。

3. 地方厚生局には、請求実務が載らないこともある

今回、九州厚生局の熊本地震のページは被害状況の案内と厚労省へのリンクだけでした。通知一覧のページには3本並んでいましたが、いずれも厚労省から出たものと同じです。

地元の厚生局を見れば分かるはず、と思って探すと空振りします。

4. 自分の病院が対象かは、医療機関等ポータル

緊急時医療情報・資格確認機能が使えるかどうかは、医療機関等ポータルのお知らせとメールで届く利用開始の連絡が正本です。

一人で決めない場所を、先に決めておく

請求担当が判断を止めるべき場所は、だいたい決まっています。

一人で決めない4つの場面。保険者の推測、提出先の最終判断、一部負担金の減免、保険請求の可否

  1. 確認できていない項目を推測で埋める時:空欄のまま院内責任者へ
  2. 提出先が最後まで決まらない時:確認した内容を添えて相談
  3. 一部負担金の減免に触れる時:保険者の通知を見るまで入力しない
  4. 避難所での診療が混ざる時:要請元と実施主体を確認してから

災害時は、通常より判断の材料が少ない状態で手を動かすことになります。止まっていい場所を先に決めておくと、迷った時にかえって手が動きますよ。

1件ずつ潰す、通しチェックリスト

上から順に確認すれば、1件が終わる形にしました。院内で印刷して使ってもらえます。

災害時のレセプト請求チェックリスト。診療の実施主体から請求書まで8項目

  1. その診療は保険請求にできるか:院内の通常診療か。避難所が絡むなら院内責任者へ
  2. 受付の情報がそろっているか:氏名・生年月日・連絡先・事業所名または住所。性別も
  3. 資格を照会したか:緊急時機能が使える地域・期間か。使えない時はマイナポータルも
  4. A・B・Cのどれか決めたか:確認できた/保険者だけ分かる/保険者も不明
  5. 紙か電子か決めたか:今回は紙が原則。院内の方針を請求担当者と確認
  6. 欄外・摘要欄を書いたか:Bは「不詳」、Cは住所または事業所名+連絡先
  7. 減免の対象か確認したか:保険者の通知があるなら災1・災2と特記事項も
  8. 提出先と請求書を分けたか:国保連分と支払基金分を別の束に。「未確定分」は請求書の備考欄

止まっていい項目は1・4・7の3つ。ここで手が止まったら、それは間違いではなく、確認へ回すタイミングです。

よくある質問(FAQ)

Q. オンライン請求をしている病院ですが、この分だけ紙にする必要がありますか?

今回の取り扱いでは、保険者が特定できない者等に係る明細書は紙での請求が原則です。紙の出力が困難な場合に電子でも差し支えない、という順番になっています。

判断は病院ごとなので、請求責任者と決めてから作業を始めてください。

Q. 資格照会で保険者番号だけ分かりました。記号・番号は出ません。どちらの分類ですか?

Bです。保険者番号を所定欄に記載し、紙なら欄外上部に赤色で「不詳」、電子なら番号999999999と摘要欄先頭に「不詳」を記録します。

Q. 患者さんが後日、保険証を持ってきました。もう出したレセプトはどうなりますか?

提出前に分かったなら、確認できた情報を入れて通常のレセプトとして出せます。

提出したあとに判明した場合の扱いは、今回の事務連絡には書かれていません。自己判断で動かず、審査支払機関か院内の請求責任者へ確認してください。

Q. 緊急時医療情報・資格確認機能が使えない地域です。どうすればいいですか?

ステップ1で確認した情報をもとに、過去の受診歴や勤務先への問い合わせで保険者をたどります。それでも分からない分がBまたはCです。

対象地域かどうかは、医療機関等ポータルのお知らせやメールで通知されます。

Q. 災害救助法が適用された地域の患者さんは、全員が一部負担金の免除になりますか?

なりません。対象者・期間・確認方法を決めるのは加入している保険者と自治体で、災害ごとに変わります。

免除・減額・徴収猶予のどれになるかも、通知で分かれます。窓口では申し出を受けて処理するところまでです。

Q. 医療機関自体が被災して、レセコンやカルテが使えません。

診療録やレセプトコンピューターが汚損・滅失して請求できない場合の概算請求は、別の取り扱いです。令和8年3月31日の通知でも「別途連絡があった場合は、これに従うこと」とされています。

令和8年熊本地震について、その連絡は今日時点で確認できていません。出た場合は支払基金の災害関連情報や地方厚生局の案内に載ります。

該当しそうな状況なら、自己判断で概算の数字を作らず、まず地方厚生局へ連絡してください。

Q. 調剤や訪問看護も同じ書き方ですか?

調剤報酬と訪問看護療養費についても、同様の取り扱いとされています。

処方箋を出した医療機関の都道府県番号・点数表番号・医療機関コードのいずれかが不明な場合は、3つとも記録せず、保険医療機関の所在地と名称を記録する形です。

Q. 公費負担医療の分はどうなりますか?

受給者証等がなくても受診できる取り扱いが、災害ごとに示されます。請求の方法は公費負担医療の担当部局から別に事務連絡が出るため、この記事の医療保険レセプトとは分けて確認してください。

まとめ|迷ったら、この順番に戻る

  1. 受付で残す:氏名・生年月日・性別・住所または保険者名・連絡先。ここが全部の起点です
  2. 不詳の前に照会する:緊急時医療情報・資格確認機能で、保険者番号・記号番号・枝番までたどれる場合があります
  3. 分からない分だけ不詳で出す:紙が原則。提出先が決まらない時は、確認を尽くしたうえで判断して出します

覚えておくのは通知の中身ではなく、確認する順番と、止まっていい場所。それだけで、当日の手は動きます。

この記事は、そのまま院内の共有にも使ってください。請求担当が一人で抱える場面を減らすのが、いちばんの目的です。

受付まわりの基本は、無料の受付で固まらない制度早見表PDFにもまとめています。

参考にした一次資料

関連記事

■ 著者プロフィール
総合病院3院で医療事務10年以上、うち1院で元採用担当を3年。
現在はフルリモートの医療事務として算定業務を担当。3児の父。
「もうひとりで悩まない医療事務」を届けるため発信しています。

最終更新日:2026年7月29日