「保険証がないまま出した処方箋、薬局で通りますか」
災害のあと、受付でも算定でも出てくる質問です。

答えを先に言うと、保険者番号の欄が空欄でも、処方箋そのものは無効になりません。ただし確認するのは病院ではなく、処方箋を受け取った薬局のほうです。

この線引きに、総合病院で医療事務10年以上、いまはフルリモートで算定業務を担当している私がお答えしますね。

✅ この記事でわかること
- 災害時に、薬局側で確認される3つの取扱い
- 患者さんから「薬はもらえますか」と聞かれた時の答え方
- 処方箋の使用期間が、災害でどう扱われるか
- 救護所・避難所で交付した処方箋が、保険では通らない理由
- 病院側が処方箋を出す時にできること
- 対象になる地域と期間の確かめ方

先に答えをお伝えすると、災害時の院外処方で確認する側にいるのは保険薬局です。病院の窓口では「受け取れます」と断定せず、処方医と薬局の確認へつなぐところまで

薬局で何が確認されるかを知っておくと、この「つなぎ方」が急に具体的になりますよ。

▼ 今すぐ患者さんへの答え方を見る

🔴 令和8年熊本地震での取扱い(2026年7月31日時点)
- 令和8年3月31日付の通知にある取扱いが、令和8年8月31日までの間、対象地域に適用されます
- 処方箋の使用期間を延ばす記載は、この通知にはありません
- 期間と地域は変わることがあります。使う時点で通知を確認してください

✅ この記事を書いた人
ゆう|3つの総合病院で医療事務10年以上|元採用担当3年|現フルリモート医療事務|3児パパ

まず線引き|どこからが薬局の仕事か

この記事でいちばん伝えたいのが、ここ。

災害時の取扱いを読むと、病院と薬局の話が続けて出てきます。混ざったまま覚えると、窓口で言い切ってはいけないことまで言ってしまいます。

災害時の院外処方の役割分担。病院は処方箋を交付し受付情報を残す、薬局は加入保険と交付場所と処方内容を確認する

場面 確認する人
受付で保険の情報を聞き取る 病院
処方箋を交付する 病院(処方医)
保険者番号がない処方箋の加入保険を確かめる 薬局
処方箋の交付を受けた場所を確かめる 薬局
処方箋なしで調剤できるかを判断する 薬局(処方医への確認つき)

病院の窓口でできるのは、聞き取った情報を残すことと、つなぎ先を伝えること。

薬に関する判断は、処方医と薬剤師の領域です。ここを混ぜないだけで、災害時の受付はかなり楽になります。

患者さんに聞かれた時の答え方|場面別に3つ

先に、窓口で実際に出てくる場面から。

窓口の場面別3つ。保険証がない場合、処方箋がない場合、期限が切れた場合それぞれの答え方

場面①「保険証を持っていないけれど、薬はもらえますか」

被災により保険証を提示できなかった場合として、受け取れる取扱いがあります。ただし薬局で、加入している保険の聞き取りが入ります。

被用者保険なら勤務先の事業所名、国民健康保険と後期高齢者医療なら住所。ここを薬局で確認して、調剤録に記載する取扱いです。

💬 「お薬は受け取れます。薬局でも、加入されている保険と、お勤め先かご住所をお尋ねされますので、分かる範囲でお伝えください」

「大丈夫です」だけで終わらせないのがポイント。薬局でもう一度聞かれると知らないまま行くと、患者さんが不安になるのはそこ。

場面②「処方箋を持って避難できませんでした」

薬局で調剤できる場合があります。ただし条件つきで、判断するのは薬剤師です。

事後に処方箋が発行されることを前提に、医師と連絡が取れるかどうかで扱いが変わります。窓口で「もらえますよ」と言い切らないところ。

💬 「処方箋がなくてもお薬を受け取れる取扱いがあります。かかりつけの薬局か、お近くの薬局にご相談ください。お薬手帳やお薬の袋があれば、一緒にお持ちいただけますか」

お薬手帳と薬の包装を持って行ってもらう。いちばん実務を動かすのが、この一言。

場面③「処方箋の期限が切れてしまいました」

こちらは災害でも変わっていません。原則は交付の日を含めて4日以内です。

期限が過ぎた処方箋は使えないため、処方医への確認が必要になります。

💬 「使用期間を過ぎた処方箋はそのまま使えないため、処方した医師に確認いたします。少しお時間をいただけますか」

薬局で確認される3つ

ここからが本題。令和8年3月31日付の厚生労働省の通知には、被災地の保険薬局が処方箋を受け付けた時の取扱いが3つ書かれています。

薬局で確認される3つ。保険者番号がない場合、医療機関名がない場合、処方箋を持たない場合それぞれの確認内容

① 保険者番号や記号・番号の記載がない処方箋

被災により資格確認書を病院に提示できなかった場合であること。これが前提です。

そのうえで薬局が確認するのは次の内容。

  • 加入している保険
  • 被用者保険の被保険者なら、事業所名
  • 国民健康保険と後期高齢者医療の被保険者なら、住所

確認した内容は、調剤録に記載しておく取扱いです。

つまり保険者番号の欄が空欄でも、処方箋そのものは無効になりません

ここを知らないと、受付で「保険証がないから院外処方は無理かもしれない」と余計な心配をすることに。

② 保険医療機関の記載がない処方箋

薬局は、処方箋の交付を受けた場所を患者さんに確認します。

ここで分かれ道。交付を受けた場所が救護所や避難所救護センターなど、保険医療機関以外の場所であることが明らかな場合は、保険調剤として取り扱えません

理由は次の章で。院内で交付した処方箋なら、この確認で終わり。

③ 処方箋を持たずに薬局へ行った場合

いちばん条件が細かいところ。事後的に処方箋が発行されることを条件に、次の2つのどちらにも当てはまる場合、保険調剤として取り扱って差し支えないとされています。

条件 中身
交通の遮断や近隣の医療機関の診療状況など、客観的にやむを得ない理由で医師の診療を受けられないと認められること
主治医(連絡が取れない場合は他の医師)との電話やメモ等で、医師からの処方内容が確認できること

医療機関とどうしても連絡が取れない時は、別の道があります。

服薬中の薬剤を失った被災者であって、処方内容が安定した慢性疾患のものであることが、薬歴・お薬手帳・包装などから明らかな場合。

この時は認めることとしたうえで、事後に医師へ処方内容を確認する扱いです。

処方箋を持たない場合の条件。事後発行が前提、やむを得ない理由と処方内容の確認、連絡が取れない時は薬歴やお薬手帳

「お薬手帳を持って行ってください」に根拠があるのは、この条文です。

救護所・避難所で交付した処方箋は、扱いが変わることがあります

②で分かれた道の先を、もう少し。

災害救助法に基づく医療の一環として、救護所や避難所救護センター等で処方箋の交付を受けたと認められる場合、その調剤の報酬は救護所の設置主体である都道府県・市町村へ請求します

救護所や避難所で交付した処方箋は災害救助法の医療にあたり、請求先が都道府県・市町村になる流れ

条件は、災害救助法が適用されている期間内に処方箋が交付され、調剤されたものであること。

通知には、こうも書かれています。避難所や救護所で発行された処方箋には「災」と記されている場合があるものの、災害救助法の医療が適用される場合は保険診療として取り扱われない。

だから交付を受けた場所を患者さんに確認する、という順番です。

判断に迷った場合の相談先も決まっていて、都道府県・市町村。ここは薬局側の話ですが、自分の病院の職員が救護所や避難所での診療に出ている時は、病院側にも関係します。

💬 「避難所で受け取られた処方箋でしたら、お薬の費用の扱いが変わることがあります。薬局でも、どちらで受け取られたかをお尋ねされますね」

災害救助法の医療は、医療機関が被災していて通常の保険診療等が行われていない場合に提供される応急的な医療。通知の注記にある定義です。

処方箋の使用期間は、災害でも延びていません

ここが、いちばん誤解が生まれやすいところ。

処方箋の使用期間は、保険医療機関及び保険医療養担当規則の第20条で交付の日を含めて4日以内と決まっています。

ただし長期の旅行等、特殊の事情があると認められる場合はこの限りでない、という但し書きつき。

処方箋の使用期間。交付の日を含めて4日以内、休日と祝日も日数に含む、延長は処方医の記載による

厚生労働省が周知している内容で、押さえておきたいのが2つ。

  1. 4日には休日や祝日も含まれます
  2. 使用期間を延ばす場合は、処方箋に別の使用期間が記載されます

そして今回の災害の取扱いを最後まで読んでも、期限を過ぎた処方箋をそのまま使える、という記載は見当たりませんでした。

延長するかどうかを決めるのは処方医。窓口の判断で「災害だから大丈夫です」と言える場面ではありません。

令和5年3月24日の事務連絡には、病院側の取組例も挙げられています。会計窓口で支払いを受ける時や処方箋を交付する時に声をかける、待合や窓口に掲示する、といった内容。

この一声がいちばん効くのが、災害のあと。

病院側でできること|処方箋を出す時の3つ

薬局の話が続いたので、自分たちの側に戻しますね。

病院側でできる3つ。受付で聞いた情報を残す、交付した場所が分かる形にする、使用期間とお薬手帳を声かけする

1. 受付で聞き取った情報を残す

氏名・生年月日・連絡先に加えて、被用者保険なら事業所名、国民健康保険と後期高齢者医療なら住所。

災害時に保険証を提示できない患者さんが受診できる取扱いは、この申し立てが土台になっています。

薬局で確認される内容と同じ項目です。受付で聞けていれば、処方箋にも書ける情報が増えます。

2. 交付した場所が分かる形にする

薬局が確認するのは、処方箋の交付を受けた場所。院内で交付した処方箋なら、保険医療機関の名称が入っていれば迷いません。

自分の病院の医師が救護所や避難所で診療に出ている場合は、そこで交付した分と院内の分が混ざらないようにしておく。請求先が変わる話なので、院内の責任者と決めておく場面です。

3. 使用期間とお薬手帳を、渡す時に一声

処方箋を渡すのは、たいてい会計。4日以内であることと、お薬手帳があれば一緒に持って行ってほしいこと。この2つだけ伝われば、薬局での確認がぐっと早く終わります。

💬 「こちらの処方箋は、今日を1日目として4日以内に薬局へお出しください。お薬手帳をお持ちでしたら、ご一緒にお願いします」

薬局側にある特例|知っておくと会話が早い

病院の医療事務が判断する場面ではありませんが、薬局から連絡が来た時に「そういう取扱いがあるのか」と分かっていると、話が早く進みます。

取扱い 内容
分割調剤 医薬品の在庫が逼迫している場合等やむを得ない時、分割指示のない処方箋でも、処方医へ迅速に疑義照会を行うことが難しい場合には薬局の判断で分割調剤を行い、事後に報告できる
避難所への訪問 医師の指示に基づき薬剤師が避難所等を訪問し、薬学的管理及び指導を行った場合、在宅患者訪問薬剤管理指導料が算定できる(通院による療養が可能と判断される患者には算定できない)
仮設の薬局 建物が全半壊等し、代替の仮設建物で調剤を行う場合、場所的近接性や体制から継続性が認められれば保険調剤として取り扱える

薬局側の3つの特例。分割調剤、避難所への訪問薬剤管理指導、仮設の薬局

分割調剤の連絡が来たら、処方内容が変わったわけではありません。在庫の事情で回数が分かれた、という話です。

対象になる地域と期間

取扱いには、必ず範囲があります。ここを飛ばすと、対象外の患者さんに対象の説明をしてしまうことに。

令和8年3月31日付の通知は、大きな災害が起きた時に個別の通知を待たずに適用される形で作られたもの。

対象となる期間は、災害が発生した日の属する月とその翌月です。

令和8年熊本地震なら、令和8年8月31日までの間。

ただし全部が同じ期間ではありません。救護所等で交付を受けた処方箋の請求先、避難所への訪問薬剤管理指導、仮設の薬局の3つは、災害による事情が終了するまで適用される扱いです。

対象になる期間。発生した月とその翌月で令和8年8月31日まで、3つの取扱いは事情が終了するまで

確認する場所は3つ。

  1. 支払基金の災害関連情報:災害ごとのフォルダに通知のPDFが直接置かれます
  2. 厚生労働省の「第◯報」:各報のPDFに、その時点で出た通知が発出日つきで並びます
  3. 都道府県・市町村:災害救助法の医療にあたるかどうかの相談先

災害のたびに探し方から始めると、時間を取られます。覚えておくのは、この3つだけ。

一人で決めない場所を、先に決めておく

窓口で止まっていい場所は、3つ。

一人で決めない3つの場面。薬を受け取れるかの断定、避難所で交付した処方箋、期限切れの処方箋

  1. 「薬を受け取れます」と断定したくなった時:判断するのは薬剤師。つなぎ先を伝えるところまで
  2. 避難所や救護所での交付が混ざる時:請求先が変わります。院内の責任者へ
  3. 使用期間を過ぎた処方箋の相談を受けた時:処方医へ確認してから返事をする

止まる場所を先に決めておくと、迷った時にかえって手が動きますよ。

窓口で使う、通しチェックリスト

処方箋を渡す場面を、上から順に。

  1. 受付で聞いた情報が残っているか:氏名・生年月日・連絡先・事業所名または住所
  2. 処方箋に書ける情報は書いたか:分かる範囲の保険情報と、保険医療機関の名称
  3. 交付した場所は院内か:救護所・避難所での交付なら、院内の責任者へ
  4. 使用期間を伝えたか:今日を1日目として4日以内
  5. お薬手帳を案内したか:処方箋がない場合の確認材料にもなります
  6. 断定していないか:薬局での確認があることを添えたか

6番目だけは、毎回意識するところ。ここが災害時の窓口対応で、いちばん事故が起きやすい場所です。

よくある質問(FAQ)

Q. 保険者番号が空欄のまま処方箋を出しました。薬局から連絡が来ますか?

来ることがあります。薬局側は加入している保険と、事業所名または住所を確認する取扱いなので、患者さんから聞き取れない時に問い合わせが入る形です。

受付で聞いた内容が残っていれば、その場で答えられます。カルテのどこに残すかを、院内で決めておくと早いですよ。

Q. 自分の病院の医師が避難所で診療しています。そこで出した処方箋は?

災害救助法に基づく医療の一環として交付されたと認められる場合、その調剤の報酬は救護所の設置主体である都道府県・市町村への請求です。

その場合は保険調剤になりません。実施主体と要請元の確認が先なので、院内の責任者へつないでください。

Q. 災害だから、処方箋の使用期間を延ばして書いてもいいですか?

決めるのは処方医です。療養担当規則には、長期の旅行等特殊の事情があると認められる場合の但し書きがあり、その場合は処方箋に別の使用期間が記載されます。

医療事務の側で「災害なので延長できます」と案内するものではありません。

Q. 患者さんが「処方箋なしで薬をもらえると聞いた」と言っています。

そういう取扱いはあります。ただし事後的に処方箋が発行されることが条件で、医師の診療を受けられない客観的な事情と、医師からの処方内容の確認が必要です。

判断するのは薬局と処方医。窓口では「そうした取扱いがあるので、薬局にご相談ください」までにしておくのが安全です。

Q. 期限が切れた処方箋を持って薬局へ行った患者さんから、電話が来ました。

処方医への確認が必要になります。再発行が必要かどうかも含めて、医師の判断です。

その場で「持ってきてもらえば出せます」と答えず、確認してから折り返す形にしてください。

Q. 薬局から「分割調剤にしました」と連絡がありました。処方内容が変わったのですか?

変わっていません。医薬品の在庫が逼迫している場合等やむを得ない時に、分割指示のない処方箋でも薬局の判断で分割して調剤し、事後に報告できる取扱いがあります。

Q. 自分の病院が対象の地域かどうかは、どこで分かりますか?

災害ごとの事務連絡に、対象となる地域と期間が示されます。支払基金の災害関連情報と、厚生労働省の各報を見るのが早いですよ。

期間が延びることも、追加の取扱いが出ることもあります。使う時点の通知で確認してください。

まとめ|3つだけ持ち帰る

  1. 確認する人は薬局側にいる:加入保険、交付を受けた場所、処方内容。病院の窓口で断定しない
  2. 使用期間は災害でも4日:休日・祝日も含みます。延長を決めるのは処方医
  3. 災害救助法の医療にあたる場合は、保険調剤にならない:救護所等で交付を受けたと認められる分の請求先は都道府県・市町村。混ざったら院内の責任者へ

災害時の窓口で必要なのは、制度を全部覚えることではなく、どこで手を止めるかを知っていること。それだけで、当日の対応は変わります。

自院のレセプト側の手順は、災害時のレセプト請求にまとめています。

患者さん向けの受診の流れは、災害時は保険証がなくても受診できますへ。

受付まわりの基本は、無料の受付で固まらない制度早見表PDFにもまとめました。

参考にした一次資料

関連記事

■ 著者プロフィール
総合病院3院で医療事務10年以上、うち1院で元採用担当を3年。
現在はフルリモートの医療事務として算定業務を担当。3児の父。
「もうひとりで悩まない医療事務」を届けるため発信しています。

最終更新日:2026年7月31日