「改定で給料が上がると聞いたのに、明細が増えていない」「事務は対象外と言われた」という声をよく聞きます。
中には「賞与でまとめて払う」と言われて、釈然としないまま過ごしている人も。
その気持ち、よく分かります。
この疑問に、3つの総合病院で医療事務として10年以上、うち1つの病院で元採用担当を3年やってきた経験からお答えします。
この記事でわかること
- 明細で今日見る2つの数字=基本給と総支給額
- ベースアップ評価料とは何か。医療事務も実務で関わります
- 「上がっていない」と感じるときに起きている3つのからくり
- 本来のルール(決められた実施期間内に・全額職員へ・賞与だけはNG)と公的な根拠
結論から言うと、ベースアップ評価料で得たお金は、職員の賃金に充てるのが原則です。改善額の3分の2以上は毎月の給料へ回す決まりで、賞与だけにまとめたり、院の赤字の穴埋めに使ったりは原則できません。 ただし、そもそも算定していない職場もあります。
今やること
給与明細の基本給と総支給額を、去年の同じ月と見比べる。
▼ 確かめる視点へ
その仕組みを、届出や計算に関わってきた事務の立場と、採る側にいた経験の両方から整理していきます。
この記事は制度の考え方を整理したものです。金額や率、対象の範囲は改定や職場の状況で変わります。最終的な確認は、勤務先の事務長や厚生労働省の資料でお願いします。
ベースアップ評価料とは(医療事務も関わる賃上げの制度)
ベースアップ評価料は、看護職員や医療事務などで働く人の賃上げを進めるために設けられた診療報酬の点数。算定して得たお金を、職員の給料アップに充てる仕組み。
| 段階 | お金の流れ |
|---|---|
| ① 算定 | 患者さんの会計に評価料が乗る |
| ② 入金 | 診療報酬として数か月後に病院へ入る |
| ③ 賃上げ | 職員の賃上げに充てるのが原則 |
この制度は、事務にとって他人事ではありません。
届出の書類づくりや、対象になる人件費の計算に、医療事務が関わる職場は多いです。
つまり医療事務は「賃上げを受け取る側」であると同時に、「制度を回す実務の当事者」でもあります。二重の立場です。
だからこそ、仕組みを知っておくと、自分の給料に何が起きているのかが見えてきますよ。
令和8年度の改定では、この評価料の対象が広がりました。すでに算定している職場でも、改めて届出が必要に。
「去年より手当が減った」と感じる場合、この届出や計算の切り替えが背景にあることも。
自分の職場がちゃんと還元しているか、確かめる視点
今日やることは、給与明細の基本給と総支給額を、去年の同じ月と見比べること。仕組みが分かると、自分の職場の状況を落ち着いて確認できます。
事実を押さえるところから。
確認したい点は、次の4つ。
- 給与明細に、ベースアップ分の手当や上乗せがあるか
- 賞与だけでなく、毎月の基本給や定例手当が上がっているか
- 「基本給に移し替えただけ」で、総額が変わっていないことになっていないか
- そもそも、自分の職場が評価料を算定しているか
どれも明細と就業規則で確かめられます。
これらは、事務長や経営側にていねいに尋ねれば確認できる範囲です。
「制度では改善額の3分の2以上を毎月の給料へ回すと決まっていると知ったのですが、うちはどう運用していますか」
こう聞く形なら、角も立ちにくいですよ。
医療事務は、届出や計算に関わる立場でもあります。仕組みを知ったうえで確認することは、わがままではなく、実務の当事者として自然なこと。
「上がっていない」と感じるとき、起きている3つのからくり
ここが分かれ道です。
「改定で上がるはずなのに、明細が変わらない」と感じるとき、その裏には、だいたい次の3つのどれかが隠れています。順番に見ていきますね。
| からくり | 起きていること |
|---|---|
| そもそも算定していない | 評価料を届け出ていない職場がある |
| 事務が対象から外れている | 看護職だけに配り、事務に回していない |
| 配り方が見えにくい | 賞与にまとめる・手当を付け替える |
① そもそも算定していない
ベッドのない診療所などでは、評価料を算定しなくても診療報酬が減らされる仕組みになっていません。そのため、あえて届け出ていない職場もあります。
届出には手間がかかるうえ、一度上げた基本給は職場の判断で簡単には下げられないため、あえて届け出ないまま様子を見ているところもあります。
「上がらない」のではなく「そもそも取っていない」ケースですね。
② 事務が対象から外れている
評価料は本来、医療事務も対象に含めて考えられる制度。それでも、配るときに看護職だけにして、事務に回していない職場があります。私が耳にした範囲では、これがいちばん多い形でした。
私が見てきた中にも、「事務は外していた」という話はありました。一方で、経営側が「事務を外す理由がない」と判断し、毎月きちんと上乗せしていた良い例もあります。
同じ制度を使っていても、配り方は職場ごとにばらばらでした。
③ 配り方が見えにくい
毎月の基本給に上乗せするのではなく、賞与でまとめて払う。あるいは、もともとの事務手当を減らして基本給に移し替える。
こうした「見せかけの昇給」だと、手取りが増えた実感はわきにくいですよね。
本来のルール(厚生労働省の資料より)
ここが一番大事なところ。ベースアップ評価料の使い道には、はっきりとした原則があります。厚生労働省や日本医師会の資料をもとに整理します。
算定して得たお金は、対象になる職員の賃金に充てるのが原則です。
ポイントは3つです。
- 賃金の改善は、届出ごとに決められた実施期間の中で行うのが原則。算定を始める前から前倒しで賃上げしている職場もあります
- 評価料で得た収入は、職員の賃金改善に充てる。院の赤字の穴埋めなど、ほかの用途には使わない
- 改善額の3分の2以上は、基本給や毎月の決まった手当の引き上げに充てる。年末の賞与など一時金だけに回す形は、原則として認められません
つまり、「賞与でまとめて支給します」だけで終わらせると、原則から外れている可能性があります。毎月の給料そのものを底上げする。それがこの制度の狙いだからです。

もうひとつ知っておきたいのが、お金の流れ。6月に算定しても、その分の診療報酬が実際に入ってくるのは数か月先です。
そのため、職場はいったん自分たちで賃上げ分を立て替える形です。「すぐに満額が反映されない」背景には、こうした事情もあります。
評価料の点数や算定条件を原文で確かめたい時は、項目名から厚生労働省の公式資料へ進める算定ナビが使えます。登録不要です。
元採用担当として見てきたこと
採用する側にいた立場から、正直に書いておきます。
賃上げの制度をきちんと運用し、職員に説明できる職場は、採用や定着の面でも信頼されます。
逆に、評価料を取っているのに配り方があいまいだったり、事務を外したりする職場は、人が定着しにくい印象がありました。お金の扱いは、その職場が職員をどう見ているかが表れる部分。
見せかけの昇給かどうかは、基本給と総支給額の両方を見れば判断できます。手当の名前が変わっただけで総額が同じなら、実質は上がっていません。明細は正直です。
それでも納得がいかないときに
仕組みを確認して、それでも還元されていないと分かったら、どうするか。動き方には順番があります。
感情ではなく事実をもとに、院内で事務長や経営側に確認します。
制度の原則を知ったうえで「うちはどうなっていますか」と尋ねるだけでも、改善につながる場合もあるはずです。
院内で話が進まない、あるいは相談しづらい事情がある場合は、労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーも選択肢です。
賃金に関する相談は無料で受け付けています。制度の原則と、明細で確かめた事実を持っていくと話しやすくなります。
それでも変わらない職場なら、最後は自分の物さしで考えていいはずです。給料の高さだけが、働く場所を選ぶ基準ではありません。
お金の扱い方には、その職場の誠実さが出ます。 そこに違和感が消えないなら、別の場所を探すのも、一つの選び直しです。
私自身、年収は下げて転職しましたが、働き方を選び直して暮らしの満足度は上がりました。数字に振り回されず、自分が納得できる働き方を選ぶ。
その判断材料として、制度を知っておくことが役に立ちます。
よくある質問(FAQ)
Q. ベースアップ評価料は、医療事務も対象ですか?
医療事務も対象に含めて考えられる制度です。ただし、実際に配るかどうかは職場の判断になっている面があり、事務を外している職場もあります。
本来の趣旨からは、事務も対象にするのが自然です。
Q. 賞与でまとめて支給するのは問題ありませんか?
改善額の3分の2以上は、基本給や毎月の決まった手当の引き上げに充てるのが原則です。年末の賞与など一時金だけに回すと、原則から外れている可能性があります。
毎月の給料を底上げするのが、この制度の狙いです。
Q. うちの職場は明細が変わりません。算定していないのでしょうか?
その可能性があります。ベッドのない診療所などでは、算定しなくても診療報酬が減らされません。そのため、届け出ていない職場もあります。
事務長に「評価料を算定しているか」を確認するのが確実ですね。
Q. 「基本給に手当を移した」と言われました。これは昇給ですか?
総額が変わっていなければ、実質的な昇給とは言えません。手当の名前が変わっただけで総支給額が同じになっていないか、明細で確認してみてください。
Q. 6月に算定したのに、すぐ給料に反映されないのはなぜですか?
算定した分の診療報酬が実際に入ってくるのは数か月先。そのため職場はいったん立て替える形になり、満額の反映に時間がかかることがあります。
賃金改善自体は、届出ごとに決められた実施期間の中で行うのが原則です。
Q. 数字や率は、この記事のとおりですか?
賃上げの目安や対象の範囲は、改定や職場の状況で変わります。具体的な金額や率は、勤務先の事務長や厚生労働省の最新資料で確認してください。この記事は考え方の整理です。
明細を見る前に、押さえておきたいところ
- ベースアップ評価料で得たお金は、職員の賃金に充てるのが原則。赤字の穴埋めや、賞与だけへの充当は原則NG
- 「上がっていない」の正体は、算定していない・事務が外れている・配り方が見えにくい、のどれかが多い
- 医療事務は制度を回す当事者でもある。仕組みを知り、明細と基本給を確かめることが、自分を守る一歩になる
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著者プロフィール
ゆう|医療事務10年以上・現フルリモート
3つの総合病院で医療事務を10年以上務め、うち1つの病院で元採用担当を3年経験しました。届出や人件費の計算など、制度の実務にも関わってきました。現在はフルリモートで算定業務をしながら3人の子どもを育てています。「もうひとりで悩まない医療事務」を届けるため発信しています。
Instagram: @iryo_jimu
最終更新日:2026年6月30日