結論:2026年8月から、高額療養費の月額上限が段階的に上がります。ただし、長く治療を続ける方への配慮は残されました。この記事では、年収300万円・500万円・900万円の方それぞれが「いくら増えるのか」「得するのか損するのか」を、医療事務として総合病院の窓口で何度も計算してきた私が、実例ベースでやさしく整理します。
この記事でわかること
- 高額療養費って結局なに?(30秒で理解)
- 自分の年収だと月いくら増えるのか(年収帯別シミュレーション)
- 得する人・損する人の早見表
- 改正前にやっておくべき「たった3つの準備」
- 医療事務の現場で実際にあった「知らなくて損した話」
💬 著者情報
ゆう|医療事務歴10年以上・元採用担当。総合病院で受付・会計・救急外来・入院担当を経験。現在はIT企業の医療事業部でフルリモート勤務(算定業務担当)。窓口で高額療養費の計算・案内を何百件も担当してきた立場から、制度改正を現場目線で解説します。
まず30秒で理解|高額療養費って何?
ある日、ご家族が突然入院することになったとします。
10日間の入院、手術もあって医療費の総額は 100万円。
窓口で「3割負担なので 30万円 お支払いください」と言われたら、ほとんどのご家庭で家計はガタガタになりますよね。
でも、実際にはそうはなりません。
なぜなら、日本には 高額療養費制度 があるからです。
💡 30秒でわかる高額療養費
ひと月(同じ月の1日〜末日)に支払う医療費の自己負担額に、所得に応じた上限が決まっています。それを超えた分は、あとから戻ってきます。
例えば、年収500万円の方が月100万円の医療費だった場合、自己負担は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 医療費総額(10割) | 1,000,000円 |
| 窓口での3割負担 | 300,000円 |
| 高額療養費の自己負担上限 | 約87,430円 |
| 戻ってくる金額 | 約212,570円 |
つまり、30万円払ったように見えて、実際の負担は約9万円ということです。
💬 医療事務の現場から
月100万円の請求書を見て青ざめたご家族が、計算結果を聞いて少し肩の力を抜く瞬間。私は窓口で何度もその顔を見てきました。「日本の保険って本当によくできてるんですね」と言われることもよくあります。
申請方法は2つ
| 方法 | タイミング | 特徴 |
|---|---|---|
| 限度額適用認定証 | 入院前に申請 | 窓口で最初から上限額のみ支払い |
| マイナ保険証 | その場で適用 | オンライン資格確認対応の医療機関なら自動 |
| 還付申請(事後) | 受診後 | いったん3割払って、3〜4ヶ月後に返金 |
入院や高額治療が見込まれる場合は、事前に限度額適用認定証を取っておくのが家計のダメージが少なくて済みます。
⚠️ 対象外になる費用にご注意
差額ベッド代、入院時の食事代、保険適用外の診療費(先進医療や自由診療など)は、高額療養費制度の対象外です。これらは別途、自己負担となります。
【現行】あなたの年収だと月いくらまで?
2026年7月までの自己負担の上限額は、所得によって5段階に分かれています。
| 区分 | 年収目安 | 月額の自己負担上限 | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|---|
| ア | 約1,160万円超 | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 140,100円 |
| イ | 約770〜1,160万円 | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 93,000円 |
| ウ | 約370〜770万円 | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 44,400円 |
| エ | 〜約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
| オ | 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
「多数回該当」って?
直近12ヶ月の間に、高額療養費を 3回以上もらった人 は、4回目以降から上限がさらに下がります。
長く治療を続ける方への配慮として作られたしくみです。例えば抗がん剤治療やリウマチ治療など、毎月のように高額な医療費がかかるケースで威力を発揮します。
💬 窓口あるある
「先月も来たよね?」とご本人が言うときは、私は内心「お、これは多数回該当に当たりそう」と思いながら、過去の支給歴を確認します。該当する人ほど、知らないと損をする制度です。
【ここが今回のメイン】2026年8月、何が変わる?
2025年12月25日、厚生労働省で正式に決定しました。変更は2段階で行われます。
🔵 第1段階:2026年8月
ポイントは2つです。
① 月額の上限額が一律アップ
5つの区分はそのままで、各区分の上限が引き上げられます。
| 区分 | 年収目安 | 引き上げ幅 |
|---|---|---|
| ア | 約1,160万円超 | +約17,700円 |
| イ | 約770〜1,160万円 | +約11,700円 |
| ウ | 約370〜770万円 | +約5,700円 |
| エ | 〜約370万円 | +約3,900円 |
| オ | 住民税非課税 | +約1,500円 |
特に多くの方が該当する区分ウ(年収約370〜770万円)では、基本部分が80,100円から85,800円に引き上げられます。
実際の上限額の計算式は 「85,800円+(総医療費−286,000円)×1%」 です。
例えば総医療費が100万円の場合:
85,800円 + (1,000,000円 − 286,000円) × 1% = 約92,940円
つまり、改正前と比べて 月あたり約5,500円の負担増 ということです。
② 年間の上限額が新設(朗報)
ここは 長期治療をする方には朗報 です。
これまで「月単位」でしか上限がありませんでした。毎月毎月、上限近くまで払い続けるということが起こりえました。
2026年8月からは、1年間(8月〜翌7月)でこれ以上は払わなくていい天井 ができます。
| 所得区分 | 年間上限額の目安 |
|---|---|
| 年収約370〜510万円 | 年間 約53万円 |
| 住民税非課税世帯 | 年間 約29万円 |
💬 元採用担当・医療事務の本音
月額の上限は重くなるけど、年間の天井ができたのは大きな前進だと感じます。長期治療で家計が削られ続けるリスクが、ここで止まる設計です。
🟣 第2段階:2027年8月
ここから少し複雑になります。
70歳未満の所得区分が、5段階から13段階(課税12区分+住民税非課税1区分)に細分化 されます。
特に影響が大きいのが 年収約370〜770万円の中間所得層。これまで1つの区分(区分ウ)にまとめられていたのが、3つに分かれます。
| 細分化後(2027年8月予定) | 月額上限額の目安 |
|---|---|
| 年収約370〜510万円 | 据え置きの見込み |
| 年収約510〜650万円 | 98,100円+(総医療費−327,000円)×1% |
| 年収約650〜770万円 | 110,400円+(総医療費−368,000円)×1% |
📌 補足|区分の数え方
厚労省資料では、住民税非課税を除く課税区分が12区分に細分化されます。70歳未満全体では、住民税非課税区分を含めて13区分となります(12課税区分+1非課税区分=13区分)。本記事では70歳未満全体で見た13区分で表記しています。※1%部分の基準額(医療費から差し引く金額)は今後の保険者資料の正式公表で確認してください。
※施行までに金額・区分の修正が入る可能性があります。
逆に、年収200万円未満の方 には朗報があります。
✨ 低所得層への配慮
年収200万円未満の方は、2027年8月から多数回該当の上限が 44,400円 → 34,500円 に引き下げられる予定。長期治療の負担が約1万円軽くなります。
【一番気になる】得する人・損する人 早見表
ここがこの記事のメインです。あなたはどっち?
🟢 得する人(負担が軽くなる人)
| こんな方 | 何が良くなる? |
|---|---|
| 年収200万円未満 で長期治療中の方 | 多数回該当が44,400円→34,500円に約1万円の負担減 |
| 長期治療を続けている方(多数回該当4回目以降) | 月額上限は据え置き=実質負担増ナシ |
| 長期で通院している方 | 年間上限額の新設で1年間の天井ができる |
| 住民税非課税世帯 | 月額上限の引き上げ幅が最も小さい(+約1,500円) |
🔴 損する人(負担が増える人)
| こんな方 | 何が増える? |
|---|---|
| 単発で大きな入院・手術をする方(区分ウ) | 月あたり約5,500円の負担増 |
| 年収約650〜770万円の中間所得層上位 | 2027年8月から月額3万円程度の負担増になる可能性 |
| 年収約1,160万円超の高所得層 | 月あたり約17,700円の負担増 |
| 入院前に認定証を取らなかった方 | 一時的に3割全額を立て替える必要あり(戻るまで3〜4ヶ月) |
【実例】年収別シミュレーション3ケース
医療事務の窓口で実際によくある3つのケースを、改正前後で比較してみましょう。
📘 ケース1:Aさん(40代・年収500万円・10日間入院)
条件:医療費総額80万円、月単位の入院
| 改正前(〜2026年7月) | 改正後(2026年8月〜) |
|---|---|
| 80,100円+(800,000−267,000)×1% | 85,800円+(800,000−286,000)×1% |
| = 約85,430円 | = 約90,940円 |
結果:1回の入院で 約5,500円の負担増
💬 医療事務の現場から
区分ウは医療事務として日々一番計算する区分です。全人口の半数近くがここに該当するので、影響を受ける方が一番多いです。
📗 ケース2:Bさん(30代・年収280万円・3ヶ月通院)
条件:抗がん剤治療で月15万円ずつ3ヶ月通院
| 改正前(〜2026年7月) | 改正後(2026年8月〜) |
|---|---|
| 月57,600円 × 3ヶ月 = 172,800円 | 月61,500円 × 3ヶ月 = 184,500円 |
結果:3ヶ月で 約11,700円の負担増
ただし、4ヶ月目以降は 多数回該当(月44,400円) が据え置きなので、それ以降の負担は変わりません。
📕 ケース3:Cさん(70代・住民税非課税・1年間透析通院)
条件:透析で毎月35,000円程度の医療費が1年続く
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 月35,400円 × 12ヶ月 = 424,800円 | 月36,900円 × 12ヶ月、ただし年間上限29万円で頭打ち = 約290,000円 |
結果:年間で 約13万円の負担減(年間上限額の新設効果)
💡 ここがポイント
「月額は上がるけど、長期で見ると軽くなる」というケースは、長期療養している方ほど多くなります。年間上限額の新設は、まさにこういう方への配慮です。
据え置き・新設・引き下げ項目まとめ(一覧表)
ここまでの内容を1枚にまとめると、こうなります。
| 項目 | どうなる? | 施行時期 |
|---|---|---|
| 月額上限額(5区分) | 🔴 引き上げ | 2026年8月 |
| 年間上限額 | 🟢 新設(朗報) | 2026年8月 |
| 多数回該当(月額) | 🟢 据え置き(負担増なし) | – |
| 所得区分の細分化 | 🟡 5→13段階 | 2027年8月 |
| 年収200万円未満の多数回該当 | 🟢 引き下げ(朗報) | 2027年8月 |
長期療養者・低所得者層への配慮は残された改正、というのが現場感覚です。
【誰でもできる】改正前にやっておきたい3つの準備
ここからは具体的な行動です。どれも30分以内に終わります。
① 限度額適用認定証を申請する
所要時間:30分
加入している保険者(協会けんぽ・健保組合・国民健康保険など)に申請するだけ。
📝 申請先の調べ方
- 会社員:保険証の裏面に書かれている「保険者」に電話 or HPで申請
- 自営業:お住まいの市区町村の国民健康保険窓口へ
- 退職後:退職前の健保が3〜4ヶ月使える「任意継続」の場合あり
入院前に取得しておけば、窓口で最初から上限額のみの支払いで済みます。
② マイナ保険証を活用する
所要時間:5分
マイナ保険証を提示するだけで、対応している医療機関なら 自動的に限度額が適用 されます。認定証の申請も不要です。
ただし注意点:すべての医療機関が対応しているわけではないため、入院が決まった時は念のため認定証も取っておくと安心です。
③ 医療費控除と併用する
所要時間:確定申告時に1時間
高額療養費で戻ってきた分は、医療費控除の計算からは差し引きます。
💡 計算式の例
(年間医療費 − 高額療養費で戻った金額 − 10万円)= 医療費控除の対象額
年間で医療費がかさんだ年は、両方の制度をセットで使うのが基本です。
💡 医療事務の現場から
入院時のご家族で「認定証を取り忘れた」というケースが、毎月のように発生 します。事前に申請するだけで、退院時の窓口負担が大幅に軽くなるのに、知らないだけで損をしている方が多すぎる、というのが現場の本音です。
【現場の本音】医療事務の窓口で実際にあった話
「えっ、こんなに戻ってくるんですか?」
ある日、ご主人が急性虫垂炎で手術・入院されたBさん(40代・年収400万円)。1週間の入院で、医療費総額が約60万円。窓口での3割負担は18万円。
Bさんは認定証を取っていなかったため、その場で18万円を支払いました。
3ヶ月後、Bさんから電話がかかってきました。
「健保から12万円の払戻通知が来たんですけど、これ何ですか?」
私は、これが高額療養費の還付ですと説明しました。Bさんは絶句した後、こう言いました。
「最初から認定証を取っておけば、6万円だけ払えばよかったってことですか?」
その通りです。一時的に12万円を 3ヶ月間立て替えていた ことになります。
この話を、私は窓口で何百回もしてきました。
知っているだけで、家計が守られる
制度を「知っている方」と「知らない方」では、同じ病気にかかっても、家計に残るお金が大きく変わります。
健康なうちに一度、ご家族と一緒に確認しておく。それが、改正に対して家計でできる 一番の備え です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 改正は本当に確定したのですか?凍結される可能性は?
A. 2025年12月25日に厚生労働省の社会保障審議会で見直し方針が決定し、2026年度予算案にも反映されました。政府方針として2026年8月からの段階的実施が示され、関連する健康保険法等改正案の審議が進んでいます(2026年4月時点で衆院通過と報じられています)。一度、2025年3月に石破総理が実施見合わせを表明した経緯もあるため、今後の法案成立状況や正式公布までは「案ベース」として捉え、最新の情報は厚労省公式でご確認ください。
Q2. 自営業者(国民健康保険)も対象ですか?
A. はい。協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険すべての公的医療保険で同様の改正が行われます。
Q3. 年間上限額は1年間で必ず使い切るものですか?
A. いいえ。1年間(8月〜翌年7月)の医療費の自己負担総額が上限を超えた場合に、超えた分があとから払い戻されるしくみです。使わなければ何も起きません。
Q4. 多数回該当は本当に据え置きですか?
A. 月額の多数回該当上限は据え置きとされています。むしろ年収200万円未満の層では2027年8月から引き下げ(負担減)の方向です。
Q5. マイナ保険証があれば限度額適用認定証は不要ですか?
A. オンライン資格確認に対応している医療機関では原則不要です。ただし、全ての医療機関が対応しているわけではないため、入院時は念のため認定証の取得も検討すると安心です。
Q6. 70歳以上の取り扱いはどうなりますか?
A. 70歳以上には別途、外来特例や所得区分が設けられています。今回の改正でも年代別の調整が入っているため、詳細は加入されている保険者に直接確認するのが確実です。
Q7. 「世帯合算」って何ですか?
A. 同じ月に同じ世帯(同じ健康保険に加入している方)で、それぞれ21,000円以上の医療費がかかった場合、合算して上限額の計算ができるしくみです。例えばご主人が1万円、奥様が3万円、お子さんが2万円かかった月(21,000円以上は奥様のみ)は単独では使えませんが、それぞれが21,000円超なら家族合計で計算できます。
Q8. ボーナスで年収が変わる年は、どの区分?
A. 高額療養費の区分は その月の標準報酬月額 で決まります。一時的にボーナスで年収が変わっても、月々の給与に応じた区分で計算されます。
まとめ|2026年8月の改正前にやっておきたいこと
- 2026年8月:月額上限の引き上げ+年間上限額の新設(長期療養者には朗報)
- 2027年8月:所得区分が5段階→13段階に細分化(課税12区分+非課税1区分。中間所得層上位は要注意)
- 据え置き:多数回該当(長期療養者への配慮は維持)
- 家計でできる備えは「認定証の申請・マイナ保険証・医療費控除の理解」の3点
- 医療事務の現場感覚としては「重くなる部分と配慮が残った部分の両方がある」改正
健康なうちに、ご自身の年収帯と現行の限度額区分を一度確認しておく。それだけで、いざという時の家計ダメージを大きく減らせます。
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✏️ 著者プロフィール詳細
ゆう|総合病院で医療事務10年以上、元採用担当3年として多くの方の面接を担当。マネジメント経験あり。10年間、片道1時間の高速通勤を続けた後、転職サービス経由でフルリモート医療事務へ転換。現在は算定業務を担当する現役医療事務×3児の父。
- X(旧Twitter): @Yuuiryounimu
- note: h_kei_creator
最終更新日:2026年5月1日
情報ソース:
- 厚生労働省 第209回社会保障審議会医療保険部会 資料(2025年12月25日)
- 厚生労働省 高額療養費制度ページ
- 厚生労働省 高額療養費制度の在り方に関する専門委員会
- 協会けんぽ 2026年4月版資料(PDF)
- FNN:健康保険法等改正案が衆院通過
- 日本経済新聞:高額療養費、自己負担の上限4〜38%引き上げ 患者配慮で改革縮む
本記事の数値は2026年5月時点の情報です。最新の正確な金額・施行スケジュールは、必ず厚生労働省公式または加入されている健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険にご確認ください。本記事は一般的な解説を目的としており、個別の医療費・税務のご相談は専門家にご確認ください。
